東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)48号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の特許請求の範囲の記載及び本願発明の要旨並びに本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決は、本願第一発明と引用例記載のものとの相違点についての認定判断を誤つたことから、本願第一発明が引用例記載のもの及び周知のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとの誤つた結論を導いた旨主張するが、本件審決の認定判断は正当であつて、原告がその取消事由として主張するところは、以下説示するとおり、理由がないものというべきである。
前示本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証及び第三号証を総合すると、本願発明は金属製モールデイングと合成樹脂等の成形体とを結合したモールデイング(装飾的縁部材)の機能向上を目的とするもので、金属モールデイング(金属成形材)とゴム又は軟質合成樹脂成形体との結合が良好であり、装飾的効果を発揮する光輝部分の光沢が損なわれておらず、かつ、光輝部分とゴム等の成形体部分との境界線が鮮明な縁部材を提供することにあり、そのために、本願発明の要旨のとおり(本願発明の特許請求の範囲1の記載と同じ。)の構成を採用したものであるところ、明細書の発明の詳細な説明の項には、その効果に関し、「<1>金属ストリツプに砥粒加工などの清浄化処理を施したり、ロール成形工程、押出しダイを通過する工程を施す間、光輝部分となるべき一定幅Wを有する部分10は保護被膜30(又は30´)によつて完全に保護されており、引剥し力を加えない限り剥離することはないので、上記の苛酷な工程中に光輝仕上げ面が傷つけられるおそれがない。<2>製品縁部材の光輝部分20と押出成形体4との境はカツタの刃先が金属成形材2の表面にまで達するように切込んだ切れ目6の線で画然と区切ることができるので、きれいな境界線により光輝部分の美的効果を向上させる。<3>金属ストリツプ1の表面に形成した接着剤層5は、該表面に清浄化処理を施した後にコーテイングしたものであるから金属表面との接着が強固である。またその上に成形された押出成形体4は、予熱工程Fでほぼ完全に活性化し、押出成形される軟質可塑物の溶融温度と等しくなるので、接着剤層5と押出成形体4とは接触面で一体化した状態となり、金属成形材2と押出成形体4とを強固に結合させる。従来の金属板に孔を穿設してプラスチツク材と結合したモールデイング(特公昭五〇―一九八一一号公報参照)では、プラスチツク層が薄い箇所において孔の近傍にひけが発生して美観を損なうが、本発明のモールデイングはプラスチツク層が薄い箇所においても接着剤層5によつて万遍なく結合されているからひけが発生する余地がない。」との効果を奏する旨の記載があることが認められる。ところで、物の発明に係る特許請求の範囲の記載において規定された物の構成によつて当然生じる効果については、それが物を製造するための工程上の事柄であつても、これを物の発明に基づく効果として認め得る場合があるが、本願第一発明の特許請求の範囲の記載によると、金属ストリツプ1の一定幅Wを有する部分10と保護被膜との関係については、単に「押出成形体4とは別途に製作された合成樹脂製の保護被膜が………剥離可能に貼着されて」いる(要件(ⅰ))と規定されているのみであり、また、金属成形材2の一定幅Wを有する部分10以外の部分と押出成形体4との結合関係についても、「接着剤層5によつて接着された」ものと規定されているにすぎないから、装飾的縁部材なる物の発明に係る本願第一発明は、前示の効果<1>に列挙された砥粒加工などの清浄化処理、ロール成形工程、押出しダイの工程や効果<3>の前段に記載されたような接着工程を経て製造されたものに限定されるものではないから、前記<1>及び<3>の前段に記載された効果は、本願第一発明の奏する効果と認めることができない。更に、本願第一発明に係る装飾的縁部材が右のような製造工程を経たものに限定されず、かつ、本願第一発明の保護被膜が、製造工程のどの段階で貼着されるかは、前示の特許請求の範囲の記載に規定されるところではないから、本願第一発明が要件(ⅰ)において、保護被膜の構成について「押出成形体4とは別途に製作された」ものと規定した点に、格別の技術的意義があるとは認められず、本願発明の明細書においても、装飾的縁部材なる物の構成としてみた場合の「押出成形体4とは別途に製作された」点のもつ技術的特徴に関する記載を見いだすことはできない。装飾的縁部材の構成としては、一定幅Wを有する部分10を保護する役目の保護被膜が、一定幅Wを有する部分10以外の部分に結合する押出成形体4と同時に製作されようと、別途に製作されようが、保護被膜が、例えば自動車の組立工程において光輝面を保護する役目を果たすものであり、かつ、製品が実用に供される最終段階においては、取り除かれるものであることには何ら変わるところがないというべきである。そうすると、本願第一発明は、装飾的縁部材の構成として、前示の特許請求の範囲に記載されたような構成を採用することによつて、製品が実用に供される最終段階まで光輝面が保護被膜によつて保護されるものとするとともに、原告主張の効果<2>(光輝部分と押出成形体との境は金属成形材の表面にまで達するように切り込んだ切れ目の線で画然と区切ることができるので、きれいな境界線により光輝部分の美的効果を向上させる。)と<3>の後段の効果(プラスチツク層が薄い箇所においても接着剤層5によつて万遍なく結合されているからひけが発生する余地がない。)を実現した点に技術的意義のあるものと理解すべきものである。また、本願第一発明の保護被膜と押出成形体の材料について、特許請求の範囲の要件(ⅰ)の記載によれば、保護被膜は合成樹脂製とされ、押出成形体は軟質可塑性のものとされているところ、前掲甲第二号証及び第三号証によれば、本願第一発明の実施例として保護被膜の材料としては、塩化ビニール系フイルム等の合成樹脂(甲第二号証の第三頁第一四行及び第四頁第一八行ないし第一九行)が、押出成形体の材料としては、ゴム又は軟質塩化ビニールなどの軟質合成樹脂が挙げられているが、ポリ塩化ビニールフイルムが、通常軟質であることは技術常識に属することであるから、保護被膜と押出成形体の材料が、共に同一の材質をもつ軟質合成樹脂からなる装飾的縁部材も本願第一発明の特許請求の範囲に含まれるものと解される。
一方、成立に争いのない甲第五号証(引用例)によれば、引用例の発明の詳細な説明の項には、「本発明は特に自動車ボデーに対するカバーモールデングに関するものである。本モールデングは比較的硬い受と前記受上の比較的軟い可撓性の被覆からなつている。前記被覆はモールデングの長手方向にのびていてそして前記被覆の取外しの出来る部分を規定する刻み目を有し、それでこの部分を取外すことにより前記受の下にある表面を露出する。」(第二頁第三欄第三行ないし第一〇行)、「前記モールデングの組立に際しては、前記モールデングの磨かれた表面に対する損害を回避しようとすれば相当の注意と充分の時間とを要する。同じ理由のために、輸送に際してはそれらを保護するために充分注意深い梱包を必要とする。これらの不具合を避け価格を下げるために、本発明は下にあるシーリング板を用いると共に磨かれた表面にモールデングに対する保護被覆をもうけること、更に必要とあれば作業が機械でやれるようなローラ又はフイラーをもうけるという概念に立脚している。この保護被覆は取付けられた受から取外されることができ、それで磨かれた表面が露出される。本発明の範囲内において、モールデイングを形成するのに用いられる受は押出機によりプラスチツク材を用いて被覆される。前記目的をなしとげるために、プラスチツクで被覆された受からなるモールデングは本発明により被覆するプラスチツク材の外側部分に長手方向刻み線を有しており、前記刻み線はプラスチツク材の取外し層を規定している。結果として、磨かれた表面の保護被覆は保護がもはや不必要となつた時は手ではがされることができる。これは容易に工具の必要もなしに行われることができる。残りの被覆は滑らかなそして直線の端により規定される。」(第二頁第三欄第二五行ないし第四欄第五行)、「前記モールデングが受板から分離される区域にある被覆の接着を確実にするために、プラスチツク材が取外されない区域の受に孔を有することが本発明の特徴であり、それにより前記プラスチツク材が孔に入りこみ固着される。」(第二頁第四欄第九行ないし第一三行)及び「プラスチツク材の層が取外されるべきでない前記区域に於て、前記受1は孔8を有し、前記孔は前記受にプラスチツク材を押出す間、プラスチツク又は流動状態にあるプラスチツク材を受入れそれで外側層2及び内側層3は一体に結合されそして被覆がしつかりと前記受に固着される。」(第四頁第八欄第一二行ないし第一七行)との記載があり、引用例の特許請求の範囲には、「被覆をプラスチツク材から押出形成された受からなる自動車車体用モールデイングに於て、外側被覆2が受1に残存するプラスチツク層4、5、5a、5b、10、10a、23、28と該層から取外し可能なプラスチツク層2a、2b、2c、2dからなり、前記両層間に、これ等両層を限定する切れ目線又は凹み6、7、W、X、Y、Z、420、421が設けられていることを特徴とするモールデイング。」と記載されていることが認められ、これらの記載と引用例記載の第一図ないし第三図などを総合し、前示本願第一発明の構成とを対比すると、引用例記載のものは、受に残存するプラスチツク層(本願第一発明の押出成形体4)が受に設けられた孔によつて固着されている点、保護被覆(本願第一発明の保護被膜に相当する。)が受に残存するプラスチツク層と同時に製作されるものである点及び切れ目線を設ける箇所について本願第一発明のように「押出成形体4のはみ出し部分及び/又は保護被膜の残部」とされていない点を除いて、本願第一発明の装飾的縁部材と共通するものと認められる。したがつて、本件審決が、本願第一発明と引用例記載のものとの対比認定をしたうえ、相違点(1)ないし(3)を指摘したことには、何ら誤りはないというべきである。この点につき、原告は、引用例記載のものにおける「取外し可能プラスチツク層」を本願第一発明における「保護被膜」に相当するものとみたことは誤りである旨主張するが、本願第一発明の保護被膜について、原告が主張するような製造工程上における効果を奏するものと認められないことは既に認定説示したとおりであり、引用例記載の保護被覆も装飾的縁部材の運搬作業ないし製品への組立工程を経て実用に供される最終段階までの間、光輝部分を保護し傷がついたりしないようにする働きをするものであることにおいては、何ら変わるところがないし、また、引用例記載のものにおける保護被覆は、前記認定のとおり比較的軟らかい可撓性のあるプラスチツク材が用いられていることからすれば、薄さの程度についても本願第一発明における保護被膜と引用例記載のものの保護被覆との間に実質的な差があるとも認められないから、引用例には、本願第一発明の保護被膜に相当するものが存しないとする原告の主張は採用できない。更に、原告は、引用例記載のものには、本願第一発明の要件(ⅲ)に規定したような「金属成形材2の表面にまで達するように切込んだ切れ目6」が存在しない旨主張するところ、成立に争いのない乙第一号証ないし第三号証によれば、切れ目線を設ける普通の技術として、台紙上に貼着したものにおいて、そのシール等の一部分を容易に、かつ、きれいに剥がせるようにするために台紙の表面に達する切れ目線を入れておくことは、本願発明の特許出願前に一般に行われていたことが認められ、また、引用例にも、前記認定した記載内容から明らかなように、保護被覆を剥離した後の磨かれた表面と残存プラスチツク部分との境を滑らかで、かつ、直線の端となるようにして、装飾的縁部材の装飾的効果を向上させることを技術的課題とし、これを実現するために切れ目線を設けたものが開示されているのであるから、引用例には、本願第一発明と同じようにきれいな境界線により光輝部分の美的効果を高めるために、残存するプラスチツク層と取外し可能なプラスチツク層との間に受の表面にまで達する切れ目線を入れ、「取外し可能なプラスチツク層」を除去したときに、画然とした境界線ができるようにする技術的思想が開示されているものというべきである。この点につき、原告は、引用例記載のものにおける切れ目線は、受の表面にまで達するものではない旨主張するところ、確かに、引用例には、直接この点を説明した記載はなく、引用例記載の実施例のうちの特定の実施例の記載には、原告が指摘するような記載もあり、引用例記載の特許請求の範囲には、「切れ目線又は凹み」とあるように残存するプラスチツク層と取り外し可能なプラスチツク層との間が凹みによつて画されたものも含まれているが、前記認定の記載内容に徴すると、引用例における切れ目線と凹みとを同意義のものと理解することはできず、前記の切れ目線を用いる周知慣用の技術内容に則して引用例における切れ目線を設けたことの技術的課題と構成とを考える限り、前記認定のように本願第一発明と共通の技術的思想が示されているものと認められるから、原告指摘の記載並びに甲第八号証及び第一三号証(優先権証明書)によつても、前記認定を覆すことは到底できない。ところで、成立に争いのない乙第四号証の一ないし三によれば、金属ストリツプと合成樹脂を接着すること及び接着したものは、既に、本願発明の特許出願前に周知であることが明らかであるから、引用例記載のものにおける受1を被覆している取り外されるべきプラスチツク材の層の部分を除く被覆部分を、孔による固着に代えて、接着剤を用いて接着することは当業者が容易になし得ることと認められ、接着剤層による接着固定とすることによつて、原告が主張するひけの発生も当然回避されるから、本願第一発明において解決した従来技術の欠点を除くことができることは明らかである。また、本願第一発明が要件(ⅰ)において、保護被膜を、金属成形材2とは「別途に製作されたもの」とした構成を採用しているものの、本願第一発明をその特許請求の範囲に規定された構成をもつ装飾的縁部材の発明としてみる限り、原告の主張する製造工程上の効果は本願第一発明の奏する効果とは認められず、本願発明の明細書の記載によつても、物の構成を規定したものとみた観点からの格別の効果が見いだせないことは、既に、認定説示したとおりであり、また、引用例記載のものにおいては、被覆が同時に製作されるが、残存させるプラスチツク層と取り外すことが予定されているプラスチツク層とは、それぞれ別個の目的と機能をもたらされているものであるから、両者がその材質を異にする場合には、被覆を同時に製作することはなくなり、保護被覆も別途に調達されることになることは、引用例からも容易に推測し得ることであるから、本願第一発明のこの点の構成も、引用例及び前記の周知慣用の技術に基づいて当業者は容易に想到し得るところである。したがつて、本件審決が、相違点(1)、(2)の点について、当業者が必要に応じて採択し得る設計的事項にすぎないと判断したことには、何ら誤りはない。更に、本願第一発明において、金属成形材2の表面にまで達するような切れ目を「押出成形体4のはみ出し部分及び/又は保護被膜の残部」に存在させたことに基づく効果は、引用例記載のものにおける切れ目線を設けたことに基づく前認定の効果と格別異なるものということができないから、本件審決が、本願第一発明と引用例記載のものとの相違点(3)について、格別の技術的意味があるものとは認められないと判断したことには、何ら誤りはない。
右に検討したところから明らかなように、本願第一発明は、引用例記載のもの及び本願発明の特許出願前周知のものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとした本件審決の結論は、正当であり、何ら違法の点はない。
(結語)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。
1 下記(ⅰ)、(ⅱ)、(ⅲ)の条件を具備する装飾的縁部材。
(ⅰ) 金属ストリツプ1の片面又は両面に光輝仕上げ面を有し、金属ストリツプ1の一定幅Wを有する部分10に(ⅱ)に記載の押出成形体4とは別途に製作された合成樹脂製の保護被膜30(又は30´)が引剥し力を加えることにより剥離可能に貼着されており、所定断面形状の金属成形材2に成形されていること。
(ⅱ) 金属成形材2が製品の光輝部分となる一定幅Wを有する部分以外は、接着剤層5によつて接着された一定断面形の軟質可塑物の押出成形体4に結合されていること。
(ⅲ) 金属ストリツプ1の一定幅Wを有する部分10は保護被膜30(又は30´)で覆われており、該部分10の端辺に沿つて、押出成形体4のはみ出し部分40a及び/又は保護被膜30´の残部30´aに金属成形材2の表面にまで達するように切込んだ切れ目6が存在すること。
2 接着剤層5には金属ストリツプ1の一定幅Wを有する部分10よりわずかに大きい幅Wの間隔が設けられている特許請求の範囲第1項記載の装飾的縁部材。
3 金属ストリツプ1は光輝焼鈍ステンレス鋼板である特許請求の範囲第1項記載の装飾用縁部材。